「融通無碍(ゆうずうむげ)」という言葉があります。特定のことにとらわれたり、こだわったりすることがなく、自由でのびのびしていることなのだそうです。「融通」は、その場その場で適切に対応することを指し、「無碍」は妨げになるものが無い状態を指します。
年齢、性別、臓器、症状のいずれにもとらわれず、幅広く総合的に診療する総合診療医の姿勢や、地域のニーズや医療資源に応じて柔軟にその役割を変化させることのできる柔軟性は、まさに「融通無碍」の境地だと感じます。

総合診療のめざす医療は、患者さんの身体的な問題のみならず、ご家族や地域も視野に入れ、多職種や他の診療科と連携し、予防・保健・福祉までもカバーする全人的な医療です。
それを実践するために、プライマリ・ケアで出会うさまざまな主訴や疾患に対する診療能力、多職種のチームをまとめるコーディネート能力、それを裏打ちする人間的な豊かさなど多くの能力が総合診療医には求められます。山口大学総合診療プログラムでは、病院で、診療所で、在宅医療において必要とされるさまざまな能力を、県内外の多彩なフィールドに身を置いて磨き上げることを目標にしています。

私どものもとには、山口県内の多くの病院から総合診療医を派遣してほしいという要望が頻繁に届きますが、総合診療医は県内にはまだ少なく、ニーズに応えられないのが現状です。山口県は高齢化先進県であり、医師の地域偏在や診療科偏在など地域医療を支え続けるうえでの問題が山積みです。こうした現状をみていると、これからますます総合診療が重要視され、必要とされると思われます。山口県唯一の医育機関である山口大学の総合診療部として、信頼され頼りにされる総合診療医の育成に全力で取り組んでまいります。あわせて、総合診療分野の研究に関しても地道に取り組んでいく所存です。

山口大学医学部附属病院
総合診療部 特命教授
黒川 典枝